【第2話】イケメンウェイターをなぜか堪能できた、ハワイのメインダイニングでのディナー」

胡桃

式を終えて、新婚旅行はハワイ。
本当は私はヨーロッパへ行って、ロマンティック街道とか、ノイシュバンシュタイン城とか、眺める旅が良かったんです。激務の夫は「どこでもいいけど、パンツ一つで寝ころんでいたい」とのこと。仕事が忙しいから毎日大変だろうし、という優しい気持ちで、譲りました。まあ、結果、もしヨーロッパだったらもっと悲惨になっていた気がするので、ハワイののんびりした旅で良かったのかもと思います。

遠距離恋愛ですから、結婚したといっても、お互いにまだ取り繕うこともできていた関係です。新婚旅行で揉めて、成田離婚。そういう言葉が流行る数年前のことでした。
夫は私に、飛行機が怖い、ということを隠していました。そのまま、ハワイ行きの飛行機に乗り込みました。

機内で、やたらとお酒を飲む夫。お酒が好きなタイプではないと思っていたし、意外だなと思いつつ、きっと疲れが出て眠りたいのかなと思い、傍観していました。ハワイまで、あのころ7時間ぐらいのフライト。私は見事に、放置されました。隣に座ってはいましたよ。でも、会話もほとんどなくて、なんだかずっと緊張した顔をしています。落ち着きがありません。

もしや、早くも結婚に後悔しはじめたのか?でも、そうならそうだと言いそうな人だけどな。私は平静を装いつつ、フライトを楽しんでいるふりをしつつ、心の中はざわめきはじめます。

やっとオアフ島へ着き、まずはマウイ島へ。またフライトですね。で、ホテルからの迎えの車で、やっとこさホテルへ到着しました。パンフレットで見た、とても素敵な外観。ああ、やっと旅行が始まった、と私の胸にわくわくが戻ってきました。その夜は、ホテルのメインダイニングでのディナー。この新婚旅行では、一番良いレストランです。

時間が来て、二人でフレンチのレストランへ。それはそれは、とても美しかったです。一面は大きな窓で、きれいな装飾の向こうに海が見えました。

広い部屋の、真ん中ぐらいの丸いテーブル。夫と向かい合って座ります。そっとまわりを見ると、ほぼ日本人。わたしたちと同じ、新婚旅行客と思われました。それならそれで、きっとまわりに関心がないだろうからと、気持ちは少しほぐれました。日本人ばかり、というのも、そのときの私には安心できる材料でした。その後の展開も知らずに。

フレンチなので、まず前菜。そしてスープ。パスタ。メインなどなど。15分?20分?間隔で、素敵なイケメンウェイターさんたちがお料理を運んでくださいます。
その間、私はとても暇でした。お料理は素晴らしかったですよ。とても美味しかった、と思います。実はあまり味は覚えていないんですけど。

最初の前菜が来る前から、座っていた夫は眠りはじめました。
ウェイターさんがやってくると、さすが動物的カンだけはあるので、目覚めます。
で、目の前のお皿の料理を食べる。で、寝る。
次の料理が来る。で、食べて、寝る。
料理の数だけ、これが繰り返されました。
その間の寝姿は、まずはうつむいて、ぐっすり。次に、真上を向いて、ぐっすり。そのうち、真上を向いて、いびきをかきながら、ぐっすり。このバリエーションはありましたね。
もちろん、会話は一切なし。

その間、私は周囲を観察しながら、仕方がないからお料理を食べました。ウェイターさんたちが、夫の様子を見て笑っています。いたたまれません。恥ずかしい、を通り越し、もう心が痛いというのがぴったりでした。視線が突き刺さる感じがしました。

そのうちに、開き直りました。
こんなに素敵なメインダイニング。お料理を楽しまないで、どうする。
目の前の、醜態をさらす人は無視して、わざわざ起こすのもやめて、私は一人、素晴らしいお料理を堪能しようと努力しました。
ただ、まだ若かった私。完全にまわりの視線を無視するのは、難しかったですけど。

今も思い出すのは、あのときのウェイターさんたちが、本当にすごくイケメンだったこと。金髪で青い目の、素晴らしい美しさ。以前にも海外旅行をしたことはありましたが、こんなイケメン揃いのレストランも珍しいなと、そう思うぐらいの余裕は、まだありました。

イケメンを堪能した、という意味では、良かったのかもしれませんが、
夫のことは、許せませんでした。私は恥をかかされた、と思いました。
やっと食事が終わって、レストランから部屋へ戻るとき。
頭にくることに、しっかり食べながら寝たせいか、元気になってるんですよね、夫が。ふらつきもせず、元気いっぱいに、翌朝のシュノーケリングの話をしています。
こいつは頭がおかしいのか?
あ、言葉が荒れて失礼しました。
この人の脳の構造はどうなっているんだろう?
私への謝罪もなし。私の様子に気づく風もなし。

部屋へ入り、私はソファで寝る、翌朝のシュノーケリングは一人で行ってくださいと言い残し、私は部屋の入口ドア近くのソファで一晩、夜を明かしました。悲しくて、くやしくて、眠れませんでした。奥の部屋からは、夫の高いびきが聞こえてきます。もう一生許さない、と心に誓いました。

翌朝。私の怒りの激しさに、驚く夫。さすがに、ことの次第を説明されて、やっと理解してきたのか、平謝り。そのときに、飛行機が怖かった、だからごまかすために酒を飲んだ、そしたら逆に飛行機では眠れなくなったし、緊張してたからとても疲れた。だから、レストランでは寝てしまった。ごめん、と白状しました。
こいつの、弱みを知られたくないというプライドのために、私の一生に一度しかない新婚旅行のディナーを台無しにされたんだ!とわかって、さらに怒りが増しました。

で、当然シュノーケリングはキャンセル。そのことを、何度も言ってくる夫は無視。
で、昼過ぎ。さすがにお腹がすいたので、何か食べようかと、下手にでる夫。あまり気はすすまなかったけど、まあ食べるかとついて行って、ガーデンレストランみたいなところで食べたのが、ステーキサンドイッチ。
これがとても、本当に本当に美味しかったのです。不覚にもその美味しさに笑ってしまったので、そこで怒りモードが終了してしまったのは、今でも残念に思っています。

そうして、いつのまにか結婚35年になりました。
あのとき、私がスマホを持っていたら。おそらくチケットを取って一人で日本へ帰ったと思います。そして、離婚ということにもなったかも。まあ、そこは謎のままです。
まだ携帯電話も普及していないころのこと。それが良かったのか、わるかったのか。

それについて、私なりの答えは、
結局、誰かに「幸せにしてもらう」は幻想だということ。
自分で自分を幸せにする、が正解だと今の私は思います。
これは、MBTIとか、相性とかにかかわらず。
そういう気持ちで自分を大切にすることが、幸せにつながるのは間違いないですね。

▼胡桃の独断によるMBTI的分析
とにかく生理的欲求に忠実なESTPの夫。
食べる、寝る、そして動く。それがあればご機嫌です。
あのディナーは、夫にとっては「寝ながら食べる」もしくは「食べながら寝る」ができたので、一石二鳥だったのかもしれませんね。

私には、悲しい悲しい、本当に悔しい出来事でした。
今よりも、女性の社会進出は果たされておらず、自分の力で海外旅行もなかなか、行けない時代。
だから、海外旅行、それも新婚旅行にかける気持ちは、とても大きかったんですね。

今の私は、あのときの私を、抱きしめてあげたいです。
一緒にディナーを食べて、楽しく話をしてあげたいです。
悲しみも怒りも、なかなか癒えることはありませんでしたが、
その数年後から、友人との話で爆笑をとれる鉄板ネタとしては、大変活躍してくれましたね。

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